Behind Design

表舞台には出ない木型職人の話。

2022/12/12

トレンドの移り変わりは早く、モノづくりは奥深いものです。
色々な人が携わり出来上がる1つの帽子のウラ側を深掘りします。
時代とともに廃れながらも、帽子文化を守るべき奮闘している職人がいます。
日本国内で製造しているのは、ここだけかもしれない木型作りの話です。

ハットを作るその前に。

以前、布帛の帽子作りに欠かせないパターンと呼ばれる型紙の話をした。
(Behind Design 5/20 帽子を作るその前に
それと同じように、フェルトハットやストローハットなどの様な、帽子業界では帽体と呼ばれる帽子には、木型が必要だ。
靴でいうところのラスト、少し違うが金属加工でいうところの鋳型である。

木型

フェルトハットを作る工程を簡単に説明すると、この木型に帽材と呼ばれる材料を覆いかぶせ成型をする。
そのため木型の形がそのまま帽子の形となる。
成形する際は、材料を伸ばしやすくするために特殊な機械のスチームで熱と水分を含ませる。

木型作り

それゆえに熱と水分、さらには乾燥にも耐えうる木型が、ハット作りに必要不可欠である。
日本の伝統産業の多くが衰退していく中この木型作りも同様で、国内の帽子工場の減少、後継者不足など理由は様々だが、木型を作る職人は減少する一方だ。
WEST WELLを運営する中央帽子は、帽子作りの文化を守るべくこの木型作りも自社で行っている。
もちろん昔ながらの製造方法だ。

気になる木の話。

イチョウの木

木型に使用される原材料は、イチョウの木。
大阪では御堂筋沿い、東京では明治神宮外苑のイチョウ並木が有名だが、そのイチョウの木だ。
材木屋で売られる切り株の太さになるまでには、成長するのに100年以上かかり、さらに自然乾燥させて木に含まれる水分を抜くのに数年間の保管期間が経過しているそうだ。

ちなみに110年前と言えば、西洋文化を取り入れた日本人の大半が帽子を被っていた、帽子全盛期の明治~大正時代だ。
明治、大正、昭和、平成、4世代を飛び越えている切り株を見て、自然に対し、また日本の林業へのリスペクトを感じざるを得ない。
更に余談だが、明治、大正、と続くと19の熊じいちゃんという曲が思い浮かび、今が令和で、5世代を飛び越えていることには後から気付いたのだが、あえて訂正をしないアラフォーの筆者だ。

閑話休題

イチョウの木は、ある程度の硬さを持ちながらも加工がしやすく、木型作りに向いている品種だ。
また、キズが付きにくく復元力があるので変形しにくく、加工後も軽くて扱いやすい。
帽子の量産を考えると、軽くて扱いやすいに越したことはない。
イチョウはホームセンターなどでは余り見かけない木材だが、プロの料理人から愛用されるまな板などによく使用されている。
特に中華料理だ。
あの大きな中華包丁で大きな具材を叩き切る様子を思い浮かべて頂ければ、イチョウの木の丈夫さもイメージして頂けるのではないだろうか。

全てを職人の手で。

切り株から取れる木型

一つの切り株から取れる木型は大体3~4ヶ。
加工しやすい大きさにする為にノコギリやカンナ、ノミで荒取りをする。
キャンプなどで薪を割る人は多いと思うが、切り株をノコギリで切る経験をしたことがある人は中々いないのではないだろうか?
大体の大きさに切った後、カンナやヤスリで木型の形を削り出し、最終的には紙ヤスリなどで研磨しニスを塗り仕上げる。
帽子の裁断でも生地の毛並みを気にするように、木の正目、逆目を気にしながらささくれ立たないように丁寧に削っていく。
平面のものは機械で切断できるが、今の技術をもってしても、立体のものを切断するにはやはり人の手に頼るしかない。
全てが手作業なので時間がかかる上に、力仕事もあれば集中力を要する繊細な作業もあり、1つの木型が完成するには1カ月半ほど。
その様にして手間暇かけて出来た木型も、帽子を作るまでは倉庫で保管される。
そして帽子の製造が終われば、次の出番が来るまで倉庫で保管される。
長期間の保存で乾燥が進みヒビが入っても木製パテを塗り修繕し、それでもダメなものは削って別の形の木型に作り直す。
そうしてこれまで作り、保管してきた木型はファクトリーの財産である。

木型はファクトリーの財産

代表的な型で、中折れやボーラー、カンカン帽などが思い浮かぶ人が多いだろう。
その他にも名称不明なものも有り、同業者の方がわざわざこの木型倉庫まで足を運んで見学される程だ。
帽子の形が多種多様有るのも、この木型が多種多様あるからだ。
形だけでなく、サイズも含めると膨大な数の木型が必要とされる。

そして、木型以外にも帽子作りには特殊な器材が欠かせない。
どの分野でもそうだが、ここでしか使わない専門的な器具も多々あり、それらの製造も木型職人が担っている。
帽子の製造以外でもこれまで受け継いできた技術を継承し、帽子文化を伝えるべく奮闘している職人が、ここにはいる。

木型以外にも帽子作りには欠かせない器材

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